Works

ライカ

Kazumi Inada, 2021 / Installation

4 年通った大学の卒業を前に新しい進路を考える、という作業は、この地に対する自分の印象が浮き彫りになるようで奇妙な体験だった。

外界の誰もが思い描き、そして自分が目指してきたこの都市像はいまでもすこぶる健在であるものの、さすがに 50 年もの時を経ると当初のそれからは変化するらしい。上書きされた土地の記憶が染み出してくるようでもあるし、あるいはここに生活する人間の価値観のほうが順化しているのかもしれない。賛否はあろうが、本当の都会の生まれではない自分にとっては、馴染みある暮らしやすい場所だった。この場に来たからこそわかる感覚だと思う。

わたしたちは、過ごした環境それぞれに由来する自我の要素を持つ。結局自分は、散々考えた挙げ句にもう少しここに残ることを選んだが、その過程で、この街が自分に何を及ぼしてきたのかを考えざるを得なかった。この場所のなにが自分を成り立たせているのだろう。自分はこの場所をどのように振り返ることになるのだろう。

ゆっくり、ゆっくり、船は飛んでいく。まだ見ぬ旅の行き先を指して。もう戻らない地を背にして。

「ライカ」は、地球軌道を周回したはじめての動物とされる雌の犬の名前である。ソ連の宇宙船スプートニク 2 号に乗り、1957 年 11 月 3 日に打ち上げられ、地上 1000km におよぶ軌道を周回することに、地球の動物としてははじめて成功した。

その輝かしい栄誉の一方で、ライカに与えられた運命は残酷である。スプートニク 2 号は宇宙船としてはごく初期のものであり、大気圏に再突入し安全に着陸する仕組みを持たなかった。打上げ後にはロケットとの分離機構が作動しなかったうえ、衛星本体の断熱材が破損し、船内の気温は 41℃ にまで上昇した。ライカの任務は、激化する米ソの宇宙開発競争に貢献することであり、無事に地球へ帰ることではなかったのである。

ライカに装着されたセンサからのデータは、飛行開始からおよそ 7 時間後までに途絶えたとされる。宇宙を漂う間、壁のむこうにある地球を、ライカはどのように見つめたのだろうか。あるいは、ライカが自身の向かう先を以前から知っていたならば?――つくばの象徴的とも言える場を舞台としたこの展示では、4 年間過ごしたつくばを離れるか否かの節目にあたり、この地をやがて離れようとしながら過ごす自分(自分たち)を、ロケットに重ね合わせるように描いた。

筑波大学の学群生として過ごした 4 年間の最後に、進路に迷いながら制作したインスタレーション。2021 年 3 月の「平砂アートムーヴメント 2020」で展示された。会場のつくばセンタービルは、学園都市としてのつくばのまちづくりと共に完成したものの、駅前地区の空洞化が進み全テナントを撤退させての改装・再開発を控えており、展示空間自体も移ろいゆく存在そのものであった。

Play
Play
Play
Play

Installation

Kazumi Inada, 2021

  • art
  • installation